2021/07/31 15:28

かまぼこ型の糸魚川翡翠ルースを使った根付です。
2021年7月20日〜7月25日 福岡市美術館 市民ギャラリーA「ジュエリーのこれから」展2021出品作品。
作品展テーマ「和」に対する「和装小物」として作成いたしました。

意匠は六つ手卍(むつでのまんじ)、別名を麻の葉崩しとも言い、卍に2本追加したような形を基本とする連続模様です。
途切れのない連続模様で、吉祥文様の一種です。
こちらは、六つ手卍のパターンを一個おきに糸鋸で切り抜いた透かし模様で底面と天地を構成し、曲面を覆う板状の飾り爪を六つ手卍の構成要素である三角形と平行四辺形で構成しています。
かまぼこ型という、底が平で、天地も平で、残りが連続局面、という、爪を留めにくい形状のルースを使用しておりますので、通常は穴あけや接着で仕立てますが、こちらは、ルースへの穴あけや接着は一切行わず、内側の形状を石の形にぴったり合わせて作って底をはめ込んだ上で飾り爪で押さえることで石を固定しています。

作成技法は鍛造(たんぞう)といいまして、金属を切ったり削ったり潰したりと直接加工して部品を作り、部品の繋ぎ目にロウと呼ばれる低融点合金を溶かして繋げて(ロウ付け)おります。
このロウ付け作業ですが、金やプラチナと比べて銀は熱伝導率が高いため、銀では1箇所を加熱すると別の部分にも熱がすぐ伝わってしまうので、こちらをロウ付けしているとその前にロウ付けした場所に熱が回ってロウが溶けて外れてしまう恐れがあります。
したがいまして、銀で複数箇所をロウ付けする場合は融点の異なるロウを融点の高いほうから順番に使う必要があります。
その際にも、熱の伝わりを考えて、その前にロウ付けした場所が高温にならないよう、ロウ付けする順番や、火を当てる向きや、火を当てたい場所の位置について、計画を立てて作業を行う必要があります。
さらには、銀は金やプラチナに比べて熱膨張率も高いため、火に当てる作業を何度も繰り返していると膨張と収縮の繰り返しで、せっかく作った形があとから歪む心配も…
実は、銀の鍛造は、金やプラチナの鍛造よりも、手間がかかってるんですね。
銀は金やプラチナと比べて材料費がお安いので通常は工賃をあまり多く頂戴しませんが、本当はより多くの手間がかかっていること、知っていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。