2021/07/31 18:33

ドーナツ型の鈴である馬鈴の根付です。
2021年7月20日〜7月25日 福岡市美術館 市民ギャラリーA「ジュエリーのこれから」展2021出品作品。
作品展テーマ「和」に対する「和装小物」として作成いたしました。

馬鈴とは読んで字の如く馬につける鈴です。そのなかでも、このドーナツ型の馬鈴は、古い時代に中国から伝わったものと言われていて、大変独特の形状です。中空で、外周に切り込みが一周入っており、内周が繋がっている形状の内部に、玉が入っています。
このドーナツ型が面白くて、作ってみたいなと思ったのがきっかけです。

鈴や鐘の音は単に金属が当たる音ではありません。玉や舌(ぜつ)やハンマーや撞木(しゅもく)などが当たった本体が振動し、その振動が共鳴することによって「鳴る」ことになります。したがって、鈴を固定してしまうと振動が抑えられ共鳴できずに鳴らなくなります。通常の球状の鈴や、鐘が、固定されずぶら下げられているのはこのためです。
ドーナツ型の馬鈴は、どこか一箇所を固定しても他の箇所が固定されてなければ多少の共鳴が可能なため、通常の球形の鈴に比べて、固定による「鳴り」への悪影響が少ないのが特徴です。(もちろん、なるべく固定しない方がよく鳴ります)そのためか、この形状は現在では熊避け鈴として利用されています。

作成技法は鍛造(たんぞう)といいまして、金属を切ったり削ったり潰したり曲げたりと直接加工して部品を作り、部品の繋ぎ目にロウと呼ばれる低融点合金を溶かして繋げて(ロウ付け)おります。
市販の鈴は一般的に、融かした金属を鋳型に流し込む鋳造(ちゅうぞう)や、安価な大量生産の場合はプレス製法で製造されます。一方で鍛造で鈴を作る場合は、全て手作業で作りますので量産はできませんが、地金が鍛えられて丈夫となり、また鋳造に比べて地金の厚みを薄くできることで共鳴しやすくなり鳴りが良くなります。

鍛造で馬鈴を作る前に、実は、銀粘土で作れないか試してみました。
銀粘土での鈴の作り方は、コルク粘土(焼成すると燃えてなくなる)にあらかじめ作った玉を仕込んで中子を作り、その外側を銀粘土で覆って焼成すると、中空の内側に玉が入った状態を作れます。このとき、中子のコルク粘土をよく乾燥させることと、焼成前にあらかじめ銀粘土に切り口を作っておくことが、焼成時の破裂を防ぎます。
この方法で、通常の球形の鈴と馬鈴の両方の形を作ることができました。しかしながらこの方法には問題点が見えてきました。
銀粘土は銀の微粒子を焼き固めて作品を作りますので、出来上がった地金は内部全部が詰まっておらず、粒が寄り集まって一部隙間のあるボソボソの状態です。ですので、地金の振動が途中で途切れやすく共鳴しにくいのです。
共鳴しにくい素材のものを共鳴しやすくする方法としては、地金の厚みを薄くすることがありますが、この方法は銀粘土で作ったものの強度の低さが問題になります。
結果、鳴る鈴は、すぐ壊れるギリギリの地金の薄さが必要になり、実用性のなさが判明しました。
ああこれは鍛造で作るのがいいな、と。

鍛造での一般的な鈴の作り方は、地金の板から矢坊主という道具を使って打ち出して同じ大きさの半球を2つ作り、中に玉を入れた状態で半球同士をロウ付けで合わせて、切り口を入れます。(ちなみに水琴鈴やガムランボールは切り口がない形状です)
今回、地金の板をドーナツ型に打ち出すため、ドーナツ型を打ち出す専用のタガネ(そんなものは売ってない)を、教室の講師から作ってもらいました。今は大抵の道具は買うのが基本ですが、ベテラン職人さんの中には道具を自分で作れる人がおられます。道具を自分で作れる職人さんはどんどん少なくなっているので、大変貴重な存在です。
作ってもらったタガネを使って、地金の板を打ち出し、同じ大きさの上下を作って、中に玉を入れた状態で上下の内周をロウ付けして合わせ、外周の切り口を整えました。
と、実際の作り方を1行で書きましたが、地金打ち出しで同じ大きさのものを2つ作るのは、実は難しい作業なんです。
特に馬鈴の場合、内周と外周を同時に一致させないといけません。
見た目はシンプルですが、作るためには手間がかかっているのです。
どうぞよろしくお願いいたします。