2021/12/07 21:01
次のセミオーダー商品として、SILVER925製デザインリングを準備しています。
店主がしっかり目のリングが好きなのもあって、貴金属相場の高騰で華奢なデザインが流行りの今時めずらしく、地金の厚みと幅を持たせたかなりがっしりした作りでデザインしています。手が小さいと、むしろ逆にゴツいものを身につけたくなるのです。
また、地金の厚みのぶん、装着感のしっかりした重さがあります。シルバーと比べて、K18YGでは比重およそ1.6倍、Pt900では比重およそ1.9倍ですので、お値段の事情も勿論ですが、重さの点からもシルバー前提の作りになっています。
そしてこのがっしりした作りは他に大切な目的があります。地金のみのボリュームリングとしてもお楽しみいただけますが、各種ルースの彫り留めセミオーダー対応いたします。そのための厚みと幅です。
予定しているデザイン名は
御籤(みくじ):神社のおみくじ。平らで細長いものを指に結ぼうとしているようなデザインから。
加賀智(かがち):古語の蛇。丸くて細長いものが指を取り巻いたようなデザインから。ウロボロス風。
遠雷(えんらい):雷鳴が聞こえない遠くの雲の中で光っている雷。雲放電。横にジグザグしたデザインから。
菱(ひし):中央の菱形のデザインから。
結び(むすび):紐状のものを指に結びつけたようなデザインから。
環(たまき):環状のデザインから。
です。
このうち、環は全くの新作で、環以外は以前に魚子(ななこ)留め用に銀粘土で作ったことのあるデザインを元にしています。御籤と菱の原案は2010年に、加賀智と遠雷と結びの原案は2012年に、それぞれ最初に作りました。サイズ違いや石違いで複数作っていずれもtetote(終了)やminneでご好評いただきました。
今回、鋳造用にデザインリング原型を作るにあたり、自分がジュエリー作りでやりたいことの根幹の一つ「色石を何種類も並べて作りたい」をどうしても入れ込みたくて、彫り留め可能なデザインとして以前作ったデザインのブラッシュアップを考えました。
宝石を使ったジュエリーを作りたい時、アイテムは何を作るか、地金は何を使うか、石はどの種類でどんな形を何個使って配置はどうするか、デザインは、作る技法と手順は、などなど、色々なことを考えないといけません。その中で費用の面から考えると、材料費以外に、石枠作成と石留めの工賃が実は馬鹿にならないのです。特に、既製の石枠を使うのではなく手作り石枠を作るとなると、工賃がグッと上がります。
それでもラウンドカットのダイヤモンドでしたらカットの基準が決まっていて形が揃っているため、既製の石枠が使いやすいのですが、色石はカットの基準がないため形の比率がかなりバラバラで、既製の石枠が合わずに使えないことがよくあります。ラウンドカットですらそのような状況なので、ましてや、ラウンドカット以外のファンシーカットとなると形の比率が更に複雑になり、既製の石枠そのものがなかったりします。そうなると手作りで作るしかありません。
そして、石枠を作る工賃は、石の大きさが大きかろうと小さかろうと基本的に1個あたり同じです。ですから、小さい石をたくさん並べたいとなると、石枠作りだけで掛け算で大変なお金がかかってしまいます。
ならば使う石の数を減らすか。シンプルなデザインも素敵ですね。だけど石を何個も使えるならば使ってみたい。
ならば使う石の大きさと形を固定した空枠を作るか。一般的なショップさんの多くはこの方法です。でもそれでは形も大きさも合う石でないと使えません。同じ規格で石を揃えるのは、ダイヤモンドでしたら揃えやすいのですが、色石の場合は同一ロットであっても形に差があります。ましてや違う種類の石で同じ規格を揃えるのは大変です。また、石の種類によって、ある程度小さくないと手が届かなかったり、逆に、ある程度大きくないと人件費と販売価格の釣り合いが取れずに流通してなかったり、と、入手しやすい大きさが違います。
だけど、大手メーカーの宝飾品で、同じ形と大きさで種類違いの色石を入れ替えたものがたくさんあるよ?とお思いかもしれません。あれはその大きさで売ってある石を探して買い付けるだけでなく、原石から調達して規格を指定して自社商品用に特別に研磨してる場合もよくあります。あの商品に使っていたあの大きさのあの石、ルースで欲しいけれど同じものが見つからない、というのは、大抵これです。
そこで、石枠を作るのではなく、地金を直接彫って石留めをする、彫り留めなら、石留め工賃まで込みで、石枠を作るよりも少しは工賃が下げられます。形はラウンドカットのみですが、小さい石をたくさん並べるには向いています。
ただし、何事にも一長一短ありますので、彫り留めにも弱点はあります。
例えば。
石を地金に埋め込むための穴をドリルで開けますので、ラウンドカット限定です。
元々はダイヤモンドに多く使われる石留め方法のため、硬度(モース硬度)や靭性(割れにくさ)がある程度以上高い石でないと、爪留めや覆輪留め以上に石留めで割れる危険性があります。
地金に石を直接埋め込みますので、石留め箇所の地金に、石の幅以上の幅と石が留まるに十分な厚みが必要です。
地金に石を直接埋め込みますので、リングの場合、石留め後のサイズ直しが不可能になります。(サイズを上げると石穴が狭まって石が潰れて割れる。サイズを下げると石穴が広がって石が落ちる。)
そのため、今回のリングは、幅と厚みをしっかり目に作り、彫り留め用のルースもこちらでご用意・指定したもののみの承り、として計画しております。
そして、彫り留めは少々特殊な石留め方法のため、通常の爪留めや覆輪留めができる職人でも彫り留めができるとは限りません。九州の職人は自分でやるしかないので自分で一通りやる人がある程度いますが、東京では彫り留め専門の職人さんが分業しているくらい、ジュエリー作りの中でもちょっとした特殊技術です。
専門の職人さんは、彫り留め以外は既に出来上がっている状態のジュエリーを依頼者から預かって、地金に直接穴を開けて一発勝負で石留めしますので、緊張感は並大抵ではなかろうと推察します。店主は自分の商品に彫り留めするのが限界です。
なお、店主は銀粘土で魚子留めを10年以上やっておりまして、毛彫タガネを使う正式な彫り留めも練習しており、今回のリングへの彫り留めは自分でやります。実はそもそも、転職の際の目標の半分近くが、彫り留めで色石たくさん使ったものを作りたい、だったのです。頑張ります。
と、様々なことを考えて、今回のデザインリングの企画にたどり着きました。どうぞ皆様、よき色石ライフをお楽しみください。