2022/09/28 22:55
前回は「望月」の《良夜》《無月》《玉兎》のデザイン製作過程をご紹介しました。
今回は鍛造ネックレス「眉月」「月影」「月読」についてです。
満月といえば、まん丸い形と、明るくも太陽のようにギラギラではなく包み込むような優しい光。満月以外の月の特徴として、さまざまな形と、周期的な変化。そして月と相性の良い宝石といえば、ムーンストーンと真珠。
このうち、まん丸い形と、優しい光、ムーンストーンは、「望月」で使いました。次は満月以外の月の特徴を含めてデザインに使ってみようかと。両吊りネックレスに仕立てる、同種の宝石ビーズをメガネ留めでつなげてからチェーンを繋げる、着用長は首元の詰まった秋冬物に合わせやすいように少し長めの50cm+アジャスター5cmにして、アジャスターの先には同種の宝石ビーズで飾りをつける、は共通で、こちらは鍛造で彫り留めの仕立てにすることにしました。
月は、月齢に伴ってさまざまな形に変化します。満月以外の代表的なものとして、新月、三日月、半月など。また、日本では、十四夜や十六夜など、ほんの僅かな違いをめでたりもします。その中でも、さまざまな場面でその形状を最も利用されるのは、三日月型ではないでしょうか。ここはやはり、三日月モチーフは外せません。
三日月型を作ることをまず決めたあと、使う石と大きさ、並べ方を考えました。正直、単純な三日月であれば、宝石を使わずに地金の輝きだけで表すことができますが、季節柄、秋冬の装いに合う色合いにしたい思いもあって、落ち着いた色の色石を使いたいなと。そこで、色合いとしては月と真逆ではありますが、秋冬に合わせやすい、スモーキークォーツを使うことにしました。そして、三日月型の地金の幅に大きさを合わせて毛彫留めで並べることにしました。そうすると、正面からはまるで石だけが並んでいるように見えます。店主は普段、地金の余白があるデザインが多いのですが、今回は、正面からは地金を極力見せずにほとんど石だけが並んでいるように見せる、ヨーロピアンデザインに寄せてみました。
こうしてネックレスの「眉月」ができました。眉月とは三日月のことです。
月の形の次は、月の光です。月の光は、夜空を明るく照らしますが、太陽のようなギラギラした光ではなく、静かで涼しく張ったような光かと思います。使う石も、輝きは欲しいのですが、同時に、少しだけ柔らかさや落ち着きも欲しい、ということで、淡めのくすみグリーンのグリーンサファイアを使うことにしました。ムーンストーンの青白い輝きとは少し違いますが、グリーンサファイアのサファイア独特の強い輝きと落ち着いた色合いのせめぎ合いは、月の光を思わせないでしょうか。そして、月の光そのものと同時に、月の光に照らされる何かを一緒に表現できないかと。海から登る月が海を照らすことでできる「月の道」を、槌目のテクスチャーで表現しました。そして、光と道とを、交差させるデザイン。実際の現象としては、月の光が照らして月の道ができるので、月の光と月の道は一直線状になるのですが、そこをあえてカーブをつけた上で交差させる。
こうしてネックレスの「月影」ができました。月影とは月の光のことです。
月の形、月の光、ときて、最後に、月の周期性を表せないかなと。月には、満ち欠けがおこります。そして月の動きに伴って潮汐がおこります。その周期性を、波の形で表現しました。使う石は、ブラックスピネル。さまざまな色合いがある宝石スピネルのうち、唯一の不透明石です。黒い色は夜を表しています。スピネルは硬度の高い石なので、ルースのカット面がしっかりしていて、不透明なブラックスピネルの面に光がよく反射します。そしてなによりも、黒い石はかっこいいのです。そして、ブラックスピネルの反射と、波の形のデザインを生かすのに、どうしても毛彫留めではなく、石の周りの縁を囲う連桝留めにしたかったのです。
こうしてネックレスの「月読」ができました。月読は日本神話で月や夜の神であったり海の神であったりします。また天照と須佐男と合わせて三貴神の一柱とされています。
どうぞよろしくお願いいたします。